【南アルプス・北岳~間ノ岳/後編】30歳の誕生日にあこがれの北岳へ-世界が変わる瞬間
なんと、30歳になってから1か月が経過した。なんてことはない、いつも通りの家と会社の往復。変わらず納豆ばかり食べる食生活。
それでも、誕生日にあこがれの北岳に登って以来、ずーっと山のことばかり考えている。正直北岳に登ったらもう登山は飽きるだろうと思っていた。ひとつ目標としているところをクリアしたら、しばらく休もうという気になるかも知れない、と。おりてびっくり。飽きるどころかもっともっともっともっと登りたくなっている。山ブログや山雑誌をむさぼり読み、暇があれば地図を眺める。
まるでこともだ。おとなになるんじゃなかったか?
白根御池小屋から先、いよいよお目当てに向かう後編です。
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【行程】※再掲
1日目:広河原~白根御池小屋
2日目:白根御池小屋~草スベリ~北岳肩の小屋~北岳山頂~北岳山荘(幕営・デポ)~間ノ岳~北岳山荘
白根御池小屋のテント場で1泊目を無事に終え、草スベリから北岳に向かいます。
草ァ・・・
ものすごい急登です。
しかし噂どおり、お花もたくさんあります。
本当にここの急登もきつくてほとんど写真がありません。しばらく展望もありません。このとき、下界は38度くらいの猛暑だったそう。山にいてまだよかったと思う反面、標高2200m以上あるのにこんな暑い!?というほど暑い。信じられません。
ちょっと視界が開けると、真っ青な空と
おなじみのあいつが!
普段、標高2000m以上の山に登ることがめったにないので、景色の違いにうれしくなります。視界がバーン!とひらける感じ(語彙)
少し広い、休憩できそうなスポットに着いたのでザックをおろすと、白根御池小屋で声を掛けてくれたシニアのグループが。
「おねえさん、テント担いでるのに早いね~、もう追いつかれちゃった!さすが若いね!いくつなの?」
おいおい、タイムリーな投げかけじゃないかい。アルプスの視界に機嫌を良くして
「実は・・・今日誕生日で・・・30歳になったんです」
なんて言ってしまいました。いま思うと祝われたいみたいで恥ずかしい。
「あら!おめでたいねえ。わたしたちの半分も生きてないのねえ」
聞けば、6人グループ全員、70歳!本当に山で出会うシニアは元気ですね。おめでとう、とアメちゃんをふたつくれました。なんかもったいなくて未だにひとつは食べずにとっています。
「お誕生日にひとりで登山・・・親御さんは何も言わないの・・・?」と聞かれましたが笑ってごまかした(なにも言わない両親です)。
わたしは山座同定がまったくできないのですが、グループのリーダー風男性が、仙丈ケ岳と甲斐駒ケ岳だよ、と教えてくださいました。
確かに雑誌やブログでよく見る風貌だ!仙丈ケ岳は南アルプスの女王の名に相応しく、美しさと母性に似た悠然さを持ち合わせていました。甲斐駒ケ岳は驚くほど白く、自然の不思議さを改めて感じます。この二座は10月に登ろうかと画策中。
グループの皆さまと別れ、いよいよ森林限界超えの登山道を歩きます。
鳳凰三山のオベリスクと、鳥。しばらくこの鳥がライチョウだと思って浮かれていました。ライチョウにしてはよく動くなあとは思ったけど・・・。ライチョウには会えず!残念。これだけが心残り。
3000m地点へ!生まれてはじめて、3000mを超えています。
北岳肩の小屋です。平日木曜日にも関わらず、結構人がいます。肩の小屋の看板、何度も写真で見ていたから感慨深い・・・
ここまできたらあと少しで北岳山頂。わかってはいるのですが、疲労がなかなか溜まってきました。出発時は15kgだったザック、テントが白根御池小屋で結露しているので絶対に重くなっています。そういう意味では広河原から1日で上がってしまった方が楽だったのか…?なんて考えましたが、もう仕方ありません。行くしかない。
登山道が岩っぽくなってきました。北岳は体力勝負で危険箇所は特にありませんとガイドブックなどでよく見ていましたが、ここ落ちたら死ぬよなあ、という場面は何度かありました。そりゃそうか、3000m超えですもんね。
見えた!見えたよ山頂が!
そして、ついに、北岳山頂到着!
案の定泣いちゃいましたよ。本当にうれしくて。
富士山は雲ではっきりと見えないけれど、展望も最高。晴れてくれてよかった!
ここで、先ほどのシニアグループと3度目の再会。さすが早いねおねえさん!とまた声を掛けてくれたので、写真をお願いしました。
「今日お誕生日のおねえさん!いい笑顔でね!」
大きな掛け声がきっかけで、山頂にいた方たちに「おめでとう!」と祝っていただきました。恐縮しきりでしたが、これまでの誕生日でいちばん印象的だった。3,193mでお祝い。ありがとうございました。
調子に乗って30歳ポーズをしたら、03歳でした。やっぱこども。
ひとしきり堪能したら、今日のテン場である北岳山荘に向かいます。向かう途中のこの景色。
違う世界だ、と思いました。どんな言葉も陳腐なので何も言いませんが、この景色をしばらく見つめていました。赤い屋根が北岳山荘です。
一気にくだり、コースタイム若干巻きで到着。
テントから北岳が見えます。
幕営してからお昼を食べて、少し休憩してから間ノ岳へ出発。荷物を置いていったので軽い軽い!切実に空身サイコー。
中白根山を越えて、
絶景をたくさん見て、
振り返り北岳を望んだりして、
間ノ岳着です。
往復3時間くらいだったかな。荷物軽いから巻けました。ここで雲が出てしまいました。北岳でガスらなくてよかった…。間ノ岳も第3位の標高なのに、ちょっと脇役感ありますよね。きっと晴れていたらすごい展望なんだろうな。
間ノ岳で携帯電話の電波が入り、友人や職場の人から誕生日祝いの連絡を確認することができました。うれしい。皆に御礼を連絡して、北岳山荘に戻ります。
北岳山荘で乾杯。
夕飯を食べた直後に少しうとうとしたせいか疲れているはずなのに寝つきが悪く、イヤホンで音楽を聴く。大好きなバンド、grapevineのアナザーワールドという曲が流れてきた。
生まれた時から歩けるのはこの道だけだったのか
だけど空に届きそうで また手を伸ばしてやめて
明日もう一度 いつかはきっとあの向こうへと
精一杯息をして いつの間にかぼくらには見えやしない
欲しいもののためなら努力を厭わない、というタイプではない。欲しいもの・やりたいことがあっても乱されるのがいやだったり自信がなかったり傷つくのがいやだったりして体のいい理由であきらめることが多いのがわたしだ。そういう自分が好きじゃない。そういうときの自分を投影するのがこの歌詞で、まさに手を伸ばしてやめて、という感じ。
だけど、なぜか北岳にはすごくこだわって、自分の足で登って、空に届いたのだ。うれしい。どっぷり疲労を感じながらも、いまここにいることがただうれしかった。
朝は、結露が顔に落ちて起きました。めんどくさがってフライシートにペグを打たず(前室つくるために片側だけに打った)、インナーテントに結露したフライが張り付いたからだと分析していますが…いやな目覚め。勉強になりました。。。
ささっと朝ごはんを食べて撤収。テン場からはうっすら富士が見えます。
再び北岳に登ってから下山です。道中でご来光。
早くも号泣しています。お次は影北岳。
展望はいいのに、朝一の体も荷物も重く、ペースが上がりません。どうにか、2度目の北岳山頂へ。今度は間違えなかった30歳ポーズ。
すんごいガスっていたのですが、生まれてはじめての・・・ブロッケン現象!
山頂にいるひとたちみんなで盛り上がりました。
また北岳肩の小屋を通って、いよいよ下山です。
登るときの急登を思い出せば大体予想はできていたのですが、マジで下山が地獄でした。わたしの体力だからだと思うのですが、びしょびしょのテントを含む重い荷物、2日間の疲労、その他もろもろでまさにポンコツ。下りでコースタイムの1.2倍くらいかかりまして、狙っていたバスに乗れずグダグダ。まあでも、帰ってこれてよかった・・・
広河原へ下り、甲府行のバスに乗り、甲府より手前の竜王で降りて、この温泉に寄りました。
施設自体は少し古いですが、とってもいい温泉でした!平日だったので混んでなかったし。ビールに枝豆をつけてくれたし。南アルプス帰りはここと決めました。
そして甲府に戻り、高速バスで新宿へ。あこがれの北岳、無事に終了です。大台の誕生日に相応しい、大変濃厚な登山となりました。来年はもっと体力をつけて、白峰三山の縦走がしたい!!
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おとなになるということ。それがどんなことかはやっぱりよくわからないけど、わたしは30歳になった日に、世界が変わる瞬間を見た。
こうやって、自分の足で世界を変えられることは、おとなになったということかも知れない。だけど、世界の変化を感じられる心は、こどものようでもある。
歩きながらたくさんの山が見られた。いつかはあそこ、あの山も・・・まだまだ、手を伸ばそうと思う。何度でも何度でも、世界が変わる瞬間が見たい。
もういいや、おとなでもこどもでも。やまのぼり、たのしいんだもおーん!